生活習慣に関するバイオマーカーを研究するヘルスケアシステムズの研究員による、国内海外のバイオマーカーや生活習慣に関わる学術論文をまとめました。

クロモグラニンA

Chromogranin A, CgA
クロモグラニンA(Chromogranin A, CgA)は、内分泌細胞や神経内分泌細胞から分泌される糖タンパク質で、神経内分泌系の機能を反映するバイオマーカーとして注目されています。CgAは副腎髄質、腸管のエンテロクロマフィン様細胞、膵臓のランゲルハンス島細胞などに存在し、ホルモン分泌や細胞内顆粒の形成に関与しています。

クロモグラニンAの測定は、神経内分泌腫瘍(NET)の診断およびモニタリングにおいて重要です。特にカルチノイド症候群、膵内分泌腫瘍、褐色細胞腫などの腫瘍性疾患において、その血中濃度が高値を示します。また、ストレスや交感神経活動の指標としても利用され、心血管疾患や慢性ストレス状態の評価にも役立ちます。非侵襲的な測定方法として唾液中のクロモグラニンA測定も開発され、心理的ストレスや交感神経活動の簡便な評価が可能となっています。CgAは、腫瘍マーカーとしてだけでなく、ストレスや神経内分泌系の状態を総合的に評価する指標として広く利用されています。

論文タイトル:
Extreme exercise enhances chromogranin A levels correlating with stress levels but not with cardiac burden
筆頭著者と所属:
T Nickel et al., Department of Medicine II, University of Ulm, Ulm, Germany
雑誌名:
Atherosclerosis
概要:
本研究では、極度の運動がクロモグラニンA(CgA)レベルに与える影響を調査し、その結果がストレスレベルとの関連を示唆する一方、心臓負荷との関連は見られなかったことが明らかになりました。研究者たちは、強度の高い運動を行った被験者におけるCgAの変動を測定し、そのデータを心臓への負担やストレス指標と比較しました。

結果として、運動後のCgAレベルの増加は、被験者の自覚的なストレスレベルと関連していたものの、心臓の負荷指標(例えば、心拍数や血圧)との明確な関連は確認されませんでした。これにより、CgAが運動に伴う生理的なストレス反応を反映している可能性が示唆されましたが、心臓負担の指標としては不適切であることが示されました。

本研究は、CgAがストレス応答に関与する可能性を強調するとともに、運動が引き起こす生理的反応のメカニズムに関する新たな知見を提供しています。

出典情報:
T Nickel, M Vogeser, I Emslander, R David, B Heilmeier, M Op den Winkel, A Schmidt-Trucksäss, U Wilbert-Lampen, H Hanssen, M Halle, Extreme exercise enhances chromogranin A levels correlating with stress levels but not with cardiac burden, Atherosclerosis, 219(1), 161–165, DOI: 10.1016/j.atherosclerosis.2011.09.036. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22035982/
PubMed

論文タイトル:
Salivary Biomarkers of Stress, Anxiety and Depression
筆頭著者と所属:
Sylwia Chojnowska et al., Department of Clinical Biochemistry, Medical University of Białystok, Białystok, Poland
雑誌名:
Journal of Clinical Medicine
概要:
本研究では、ストレス、不安、うつ病に関連する唾液中のバイオマーカーを特定し、これらの疾患の診断やモニタリングにおける有用性を評価しています。著者らは、唾液サンプルを使用して、ストレス、不安、うつ病に関連するホルモンや分子の変動を調査しました。

結果として、唾液中のコルチゾール、アルファ-アミラーゼ、クロモグラニンA、免疫グロブリンA(IgA)などのバイオマーカーが、ストレスや感情的な健康状態を反映することが確認されました。特にコルチゾールとアルファ-アミラーゼのレベルは、ストレスや不安の指標として有望であり、唾液バイオマーカーの測定がこれらの精神的健康問題を早期に検出するための有効な方法となり得ることが示唆されました。

また、これらの唾液バイオマーカーは、侵襲的な血液検査を避けることができ、患者にとってより負担の少ない診断手段を提供する可能性があるとされています。

出典情報:
Sylwia Chojnowska, Iwona Ptaszyńska-Sarosiek, Alina Kępka, Małgorzata Knaś, Napoleon Waszkiewicz, Salivary Biomarkers of Stress, Anxiety and Depression, Journal of Clinical Medicine, 10(3), 517, DOI: 10.3390/jcm10030517. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33535653/
PubMed

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